再建 ○○○ 推測
阪倉は「隠れる」を意味する四段動詞クムの存在を、『古事記』神代の久美度(クミド、隠み所)と『新撰字鏡』の隩の訓久牟之良(クムシラ)から推定する。
動詞クムの単独の用例はなく、複合語前項からの推定にとどまる。ONCOJの語彙表に対応する語彙素はない。
阪倉篤義 2011 提唱
動詞クムの存在は、
- 文献
- 増補 日本語の語源 書籍/平凡社ライブラリー729
- 立場
- 提唱(その出典が言い出します)
- 箇所
- 増補「語源――「神」の語源を中心に」五「クマ――隠れたるもの」、ダンプ頁434
派生 ○○○ 推測
阪倉はクマ(隈)を動詞クムの語基にaを接尾した情態言(kumu―kuma)とみ、「隠れたる情態」を意味したとする。単独では入り組んで見えにくい場所、複合語前項(クマト・クマミ)では修飾的に用いられる。
クムの推定(c-kumu-verb)に依存する。a接尾による情態言の方式そのものは
research/phenomena/vowel-suffix-nominalization-sakakura.yamlが持つ。
阪倉篤義 2011 提唱
このクマという名詞は、思うに、もとクムという動詞から派生されたものであった。
- 文献
- 増補 日本語の語源 書籍/平凡社ライブラリー729
- 立場
- 提唱(その出典が言い出します)
- 箇所
- 増補「語源――「神」の語源を中心に」五「クマ――隠れたるもの」、ダンプ頁434
阪倉篤義 2011 提唱
以上に問題にして来たクマも、「隠れる」の意味の動詞クムから、同様に、kumu――kumaのようにして派生された情態言で「隠れたる情態」を意味した。
- 文献
- 増補 日本語の語源 書籍/平凡社ライブラリー729
- 立場
- 提唱(その出典が言い出します)
- 箇所
- 増補「語源――「神」の語源を中心に」五「クマ――隠れたるもの」、ダンプ頁436
語義の配当 ○○○ 推測
阪倉は、地名カムシロ・クマシロ(神代・神稲)、クマシネ(糈米、神に供する精米)、『持統紀』古訓の奠(クマ)、『倭姫世記』のカケクマ、後世の供米から、神を意味するクマがカムに並んで存在したと推定し、それをクマ(隈)と同じ情態言「隠れたるもの」とみる。
神を意味する独立語クマは文証されず、複合語の前項と古訓からの推定である。棭斎の示唆は阪倉の報告に拠る。
阪倉篤義 2011 提唱
このようにして、カムに並んでクマという語が、神を意味するものとして存在したことが推定される。
- 文献
- 増補 日本語の語源 書籍/平凡社ライブラリー729
- 立場
- 提唱(その出典が言い出します)
- 箇所
- 増補「語源――「神」の語源を中心に」五「クマ――隠れたるもの」、ダンプ頁430–431
阪倉篤義 2011 提唱
「神」の意を有したと考えられるクマは、こうして成立した、同じ情態言であって、「隠れたるもの」というのが、神の本来の意味であったと考えられる。
- 文献
- 増補 日本語の語源 書籍/平凡社ライブラリー729
- 立場
- 提唱(その出典が言い出します)
- 箇所
- 増補「語源――「神」の語源を中心に」五「クマ――隠れたるもの」、ダンプ頁437
母音交代 ○○○ 推測
阪倉はクモ(雲)をクムのu〜o母音交替形とみ、空の蔭になって見えない部分を言う語とする。「クマなき月影」は「クモりなき月影」にあたる。
u〜oの交替例は川端善明に拠ると阪倉が記す。クモをクムに結ぶ判定はクムの推定に依存する。ONCOJは雲の語彙素にkumuの転写を異形として持つ。
阪倉篤義 2011 提唱
そして、恐らくは、このkumuの母音交替形kumoが、「雲」を意味する語として用いられた。
- 文献
- 増補 日本語の語源 書籍/平凡社ライブラリー729
- 立場
- 提唱(その出典が言い出します)
- 箇所
- 増補「語源――「神」の語源を中心に」六「カミの成立」、ダンプ頁441
阪倉篤義 2011 提唱
「クマなき月影」とは、「クモりなき月影」である。
- 文献
- 増補 日本語の語源 書籍/平凡社ライブラリー729
- 立場
- 提唱(その出典が言い出します)
- 箇所
- 増補「語源――「神」の語源を中心に」六「カミの成立」、ダンプ頁442
母音交代 ○○○ 推測
阪倉は神を意味するカムをクムのu〜a母音交替形とみ(kumu―kamu)、「奥まった所に身を隠しているもの」を本来の意味とする。カムはu母音接尾で成立した古い名詞で、カムシロ・カムナガラ・カムサブのような複合語に保存されたとする。同じ形は四段動詞の終止形でもある。
u〜aの交替は阪倉自身が「例にとぼしく、一般的であったとは見なしにくい」と認め、泉井の逓音(意味の分化を伴う交替)に
位置づける。クムの推定と併せて、この単語家族の語根kamu-(c-root)に一段古い由来を与える主張にあたる。
阪倉篤義 2011 提唱
同様にして、右に問題にしたクムと、kumu―kamuという母音交替の関係にあると見なし得るのが、神を意味するカムである。
- 文献
- 増補 日本語の語源 書籍/平凡社ライブラリー729
- 立場
- 提唱(その出典が言い出します)
- 箇所
- 増補「語源――「神」の語源を中心に」六「カミの成立」、ダンプ頁444
母音交代 ○○○ 推測
阪倉は動詞カムのa〜ö母音交替形にkömu(入りくむ・つつみこむ)を置き、kömöru(籠る)をその派生形とする。
動詞カムは推定にとどまる。a〜öの交替そのものは上代語に多数の例がある(research/phenomena/vowel-suffix-nominalization-sakakura.yaml、a-oe-alternation)。
阪倉篤義 2011 提唱
右のカムという形は、それ自身、また動詞の終止形でもある。
- 文献
- 増補 日本語の語源 書籍/平凡社ライブラリー729
- 立場
- 提唱(その出典が言い出します)
- 箇所
- 増補「語源――「神」の語源を中心に」六「カミの成立」、ダンプ頁445
派生 ○○○ 推測
阪倉は上のカミ(kami)を、動詞カムの語基kam-にi母音を接合した居体言とみ、本来はシモに対して一連のものの始まる所・本源を言い、垂直方向の高低とは概念化が異なるとする。カハカミ・ミナカミの用法を中心に置き、上方・高所の意はカハカミが高所にあることとウヘとの混同から後に生じたとみる。
上の意味を「本源」に置く分析は複合語の対(カハカミ/カハシモ、コトガミ/コトシリ)から読める。
動詞カムからの形成はクムの推定に依存する。ONCOJは上のkamiを甲類のミで立て、被覆形を持たない(c-not-ue)。
阪倉篤義 2011 提唱
その語基にi母音を接合するという新しい方式(前述)によって成立した名詞(一般的な言い方をすれば、居体言)としてkami(カミ・上)という語を考えることができる。
- 文献
- 増補 日本語の語源 書籍/平凡社ライブラリー729
- 立場
- 提唱(その出典が言い出します)
- 箇所
- 増補「語源――「神」の語源を中心に」七「カミ(神)とカミ(上)」、ダンプ頁447
阪倉篤義 2011 提唱
要するに、カミとシモとは本来、垂直方向における高低・上下とは、概念化のしかたが異なるのであって、本(始源)からの距離の大小を言うものであったと思われる。
- 文献
- 増補 日本語の語源 書籍/平凡社ライブラリー729
- 立場
- 提唱(その出典が言い出します)
- 箇所
- 増補「語源――「神」の語源を中心に」二「語源と思考法」、ダンプ頁411
語形成 ●○○ 提案
阪倉はウナカミ(宇奈可美、海上)を「海のほとり」「海より上手」とみる注釈書・古語辞典の解釈を退け、上の本源義から「海の源、海の、そこから起こるところ」と解く。下総・上総の海上郡の位置と、万葉集八一三の子負原の修飾をその根拠に挙げ、詳細を『万葉』110号の論文「海上」に委ねる。
上の意味を本源とする分析(c-kami-above-kam-i)の適用例で、ウナカミの用例は万葉集八一三と地名・人名に限られる。阪倉自身が「一つの解釈」と断る。
阪倉篤義 2011 提唱
そうではなくて、海の源、海の、そこから起こるところを意味したのである。
- 文献
- 増補 日本語の語源 書籍/平凡社ライブラリー729
- 立場
- 提唱(その出典が言い出します)
- 箇所
- 増補「語源――「神」の語源を中心に」二「語源と思考法」、ダンプ頁412
同一性 ○○○ 推測
阪倉は、神のkamï(カム+i)と上のkami(kam-+i)が意味の分化に伴って語形を分けた同源の語である可能性を、上代の形態の別を認めたうえで十分に残るとみる。『播磨風土記』揖保郡の上岡の里の地名起源説話が「神阜」の命名で「上岡」を説くことを、両語の語源的結びつきが感じられていた証に挙げる。
c-not-ueの上代の別と両立する主張で、成立期の同源を問う。橋本進吉の慎重論を継ぎ、大野晋の否定論に反対する。
内田2011の解説は蜂矢2007に拠り、大野が1993年の著書で結びつきを事実上認めたと報告する。
動詞カムの推定に依存し、播磨風土記の説話は地名起源説話の一般的な性格から別の説明も立つ。
阪倉篤義 2011 提唱
もとは同源の語であったとすることは、以上のような事情を考えることによって、なお十分可能であると思われる。
- 文献
- 増補 日本語の語源 書籍/平凡社ライブラリー729
- 立場
- 提唱(その出典が言い出します)
- 箇所
- 増補「語源――「神」の語源を中心に」七「カミ(神)とカミ(上)」、ダンプ頁450
阪倉篤義 2011 提唱
「神阜」と号けた事情を説いて「上岡」の名の由来としたのは、なお、「神」と「上」との間に語源的結びつきを感じ得たからに外ならない。
- 文献
- 増補 日本語の語源 書籍/平凡社ライブラリー729
- 立場
- 提唱(その出典が言い出します)
- 箇所
- 増補「語源――「神」の語源を中心に」七「カミ(神)とカミ(上)」、ダンプ頁451
内田賢徳 2011 伝聞
蜂矢前掲論文によれば、大野氏は平成五年〈一九九三〉の著書で事実上二つのカミの結びつきを認めている。
- 文献
- 解説――あるべき語源学の書 書籍所収論文/阪倉篤義『増補 日本語の語源』(平凡社ライブラリー729)
- 立場
- 伝聞(他の説として伝えます)
- 箇所
- 解説、ダンプ頁465
内田賢徳 2011 伝聞
大野晋氏との間で行われた何度かの論争の、著者側の最終論文(昭和五七年〈一九八二〉)である。
- 文献
- 解説――あるべき語源学の書 書籍所収論文/阪倉篤義『増補 日本語の語源』(平凡社ライブラリー729)
- 立場
- 伝聞(他の説として伝えます)
- 箇所
- 解説、ダンプ頁463