語基いた「極限」の単語家族(阪倉)
主張8件
極限の状態を意味する語基いたを中心に、副詞いた・形容詞いたし・いたむ・いたまし・いたはし・いたはるを置き、 母音交替形いと(itö)から、いとふ・いとはし・いとほし・いとしを導く。いたわしい・いたましい(同情)、 いとわしい(嫌悪)、いとおしい・いとしい(愛情)を、わが心の痛みを言う一つの根から分かれた姉妹語とみる。
阪倉はいたはし・いたはる・いたる・いたし・いたく・副詞いたの語基に、極限の状態を意味する「いた」を立てる。
副詞いたと形容詞いたしの語幹が同形であることはONCOJの語彙素から直に読める。いたる(到る)を同じ語基に置く点と、 「極限」を中核義とする点は阪倉の解釈である。
阪倉篤義 2011 提唱
この「いたはし」「いたはる」などの語の語基として、「いた」という語が考えられる。
- 文献
- 増補 日本語の語源 書籍/平凡社ライブラリー729
- 立場
- 提唱(その出典が言い出します)
- 箇所
- 第二部3「心のいたみ」の節「「いた」は極限を示す」、ダンプ頁203–204
阪倉は数詞いち(一)を、極限を意味するいたの母音交替形とみる(ita〜iti)。いちしろし・いちはやしのいちが程度のはなはだしさを言うことを傍証とする。
阪倉自身が「であろう」と留保する。数詞ひと(一)との関係には触れない。
阪倉篤義 2011 提唱
数の最小のものを一(いち)というのも、これの母音が交替した形であろう(ita〜iti)。
- 文献
- 増補 日本語の語源 書籍/平凡社ライブラリー729
- 立場
- 提唱(その出典が言い出します)
- 箇所
- 第二部3「心のいたみ」の節「「いた」は極限を示す」、ダンプ頁204
阪倉は副詞いと(乙類のト。阪倉の表記でitö、ONCOJの転写でito)をいたの母音交替形とみ、a〜öの交替の例にタナぐもる―トノぐもる、タナびく―トノびく、きカす―きコす、よサづら―よソづら、ナす―ノす、サヤぐ―ソヨぐを挙げる。いたは動詞も形容詞も修飾した。いとは形容詞の修飾に限られ、動詞の修飾にはいたくが用いられた。
a〜öの交替は上代語に多数の例があり、阪倉と川端が並べる。いたといとを同じ語基に置く判定は意味(程度のはなはだしさ)と分布(いたの消滅といと・いたくの分担)に基づく。
阪倉はいたはしの構成を、語基いたに接尾語はし(うるはし・にぎはし・いそがはし・いたづかはし・まぎらはし・くもらはし・につかはしのはし)が接したものと説明する。動詞いたふからの形成(itaFu>itaFa+si)は、いたふの用例が見当たらないため採らない。
接尾語はしを持つ形容詞の列に並べる説明で、阪倉は「今のところ」の説明と断る。
阪倉篤義 2011 提唱
その構成は、「いた」という語基に、接尾語「はし」
- 文献
- 増補 日本語の語源 書籍/平凡社ライブラリー729
- 立場
- 提唱(その出典が言い出します)
- 箇所
- 第二部3「心のいたみ」の節「「いたはし」と「いとほし」」、ダンプ頁213
阪倉は、いたといとの交替関係から、動詞いとふ(厭ふ)を想定上の動詞いたふの母音交替形と関係づける(itaFu〜itöFu)。いたむは自動詞的である。いとふは他動詞的で、心にそまないものを厭い避けることを言う。
いたふは文証されず、阪倉自身が「考えられる」と留保する。
阪倉篤義 2011 提唱
この「いたふ」と関係づけ得る語として「いとふ」という動詞が考えられる(itaFu〜itöFu)。
- 文献
- 増補 日本語の語源 書籍/平凡社ライブラリー729
- 立場
- 提唱(その出典が言い出します)
- 箇所
- 第二部3「心のいたみ」の節「「いたはし」と「いとほし」」、ダンプ頁214
阪倉はいとはしを動詞いとふから作られた形容詞とみる(itöFu>itöFa+si)。心に苦痛を感じるさまが原義で、そこから「厭だ、避けたい」になる。
情意動詞から作られるシク活用形容詞の型(yasasi.yaml、c-siku-pattern)の一例。DCCJに「厭う」の語彙素があるかは確かめていない。
阪倉篤義 2011 提唱
これからできた形容詞が「いとはし」で(itöFu>itöFa+si)
- 文献
- 増補 日本語の語源 書籍/平凡社ライブラリー729
- 立場
- 提唱(その出典が言い出します)
- 箇所
- 第二部3「心のいたみ」の節「「いたはし」と「いとほし」」、ダンプ頁214
阪倉はいとほしを、いとはし(itöFasi)のFaが先行するi・öの狭い母音に引かれてFöに転じた形とみる。したがって原義は同じく「厭な気持がする」で、『源氏物語』帚木・『枕草子』の例をその義で読む。
いとはしといとほしを同語の異形とみる説明で、阪倉は「思われる」と留保する。同化の規則を他語で示していない。
阪倉篤義 2011 提唱
itöFasiのFaが、前に i・öという狭い母音が続くのに引かれてFöに転じた形が、このitöFösiであったと思われる。
- 文献
- 増補 日本語の語源 書籍/平凡社ライブラリー729
- 立場
- 提唱(その出典が言い出します)
- 箇所
- 第二部3「心のいたみ」の節「「いたはし」と「いとほし」」、ダンプ頁214
阪倉はいとしを、いとほし>いとおし(itowosi)>いとうし(itousi)>イトーシ(ito:si)の変化を経て短く発音された形とみる。『閑吟集』のいとおし・いとうし、天草本『エソポ物語』のitôxi、『日葡辞書』のItoxijを段階の証とする。
中世の資料の綴りに沿った説明で、各段階の語形が文献に現れる。
阪倉篤義 2011 提唱
これが短く発音されたのが「いとし」で
- 文献
- 増補 日本語の語源 書籍/平凡社ライブラリー729
- 立場
- 提唱(その出典が言い出します)
- 箇所
- 第二部3「心のいたみ」の節「「いとし」の原形」、ダンプ頁219