現象記述

ハ行転呼

Intervocalic labial lenition in Japanese

ハ行転呼音波行転呼 Hagyō tenko

ハ行転呼は、語中・語尾のハ行音がワ行音に変わった現象です。「かは」が「かわ」、「おもふ」が「おもう」になった経緯を、古い表記や発音の記録からたどります。

時期

世紀は出典に基づく概算です。用例・対応形の範囲は、その間ずっと変化が進行していたことを意味しません。

時期は未詳です。

対象範囲

  • 大和中央語における語中・語尾の変化を中心に扱います。語頭の摩擦音化、ワ行音の合流、母音融合は、年代も条件も別に検討します。
  • 現代語との対応例と、歴史資料に実際にある文字列とを区別します。推定される音声の各段階がすべて文証されているとは限りません。
  • 琉球諸語との共通点には、並行変化や接触による説明も提案されています。中央語の年代をそのまま当てはめることはできません。

〈〉は文字、/ /は音素、[ ]は推定音声、*は再建形を表します。変化式は出典の分析に従います。仮名の対応表は歴史的仮名遣いと現代形の対照であり、写本の逐字翻刻ではありません。

語中と語頭の違い

ハ行の子音は時代とともに変わってきました。語中では、[p]が摩擦音を経て[w]に至る弱化として説明されます。高山知明は、この弱化が語頭の変化より先に起こった可能性を論じています。

「語尾のハ行」とは、最後の音節にある子音を指します。「買ふ」の/f/も/a/と/u/にはさまれており、音の環境は母音間です。

木田章義 2000-12-30 記述
文献
国語音韻史上の未解決の問題 論文/音声研究
立場
記述(そう書いてあります)
箇所
26頁
Wikipedia日本語版の執筆者 2026-05-01 記述
文献
ハ行転呼 ウェブ資料/Wikipedia日本語版
立場
記述(そう書いてあります)
箇所
冒頭・解説(版109348028)
高山知明 2024-08-31 提唱
文献
規則性・自然性から見たハ行音の変化―オノマトペア分裂説の再検証― 論文/音声研究
立場
提唱(その出典が言い出します)
箇所
38–40頁

年代の捉え方

木田2000は語中ハ行のワ行化を、おおむね11世紀頃から鎌倉時代前までに位置づけます。Frellesvig・金水2024の概括では、語中/p/の弱化は1000年以前とされます。このように、変化の年代には異なる見方があります。

発音の変化が始まった時期、表記に現れる時期、広く定着した時期には隔たりがありえます。年代を比べるには、それぞれの研究が何を手掛かりにしているかを確かめる必要があります。

木田章義 2000-12-30 記述
文献
国語音韻史上の未解決の問題 論文/音声研究
立場
記述(そう書いてあります)
箇所
26頁
Bjarke Frellesvig 2024 記述
文献
Introduction 書籍所収論文/Handbook of Historical Japanese Linguistics
立場
記述(そう書いてあります)
箇所
6頁

綴りと発音

坂東本『教行信証』の調査では、親鸞の書簡などに比べて転呼表記が少なく、古い表記を保つ傾向が指摘されています。発音が変わっても、古い綴りを守る慣習が続くことがあります。

助詞「は」「へ」は、ワ・エと発音するようになってからも古い綴りを保っています。現行の『現代仮名遣い』も、この書き方を引き継いでいます。

青柳英司 2024-03-31 伝聞
文献
坂東本のハ行転呼について 論文/大谷大学真宗総合研究所研究紀要
立場
伝聞(他の説として伝えます)
箇所
24–31頁
内閣 1986-07-01 記述
文献
現代仮名遣い ウェブ資料
立場
記述(そう書いてあります)
箇所
第2の2・3、付表

母音連続と活用

「けふ」と「きょう」の対応には、子音の弱化・消失に続く母音融合が関わります。「まへ」と「まえ」のように母音連続が残る例もあります。

ハ行四段の「買は・買ひ・買ふ・買へ」を現代の「買わ・買い・買う・買え」と比べると、/a/の前に/w/が残る関係が見えます。「買って」「買うて」には、後続する/te/との結合による音便も関わります。

田端敏幸 1989 提唱
文献
日本語の音節構造について―主要部と修飾部― 論文/言語研究
立場
提唱(その出典が言い出します)
箇所
167–169頁
木田章義 2000-12-30 記述
文献
国語音韻史上の未解決の問題 論文/音声研究
立場
記述(そう書いてあります)
箇所
26頁
Bjarke Frellesvig 2024 記述
文献
Introduction 書籍所収論文/Handbook of Historical Japanese Linguistics
立場
記述(そう書いてあります)
箇所
6頁

「母」に見られるハワ形

天草版『平家物語』の原本99頁4行に対応する国語研の翻字データには、「母は」に当たる〈faua ua〉があります。「母」にも、語中がワになったハワ形があったことが分かります。

亀井1967は元永本『古今和歌集』などのハワ表記を報告しています。これらの例は亀井の報告と国語研の翻字によるもので、各原本画像は未照合です。

国立国語研究所 2019-03-25 記述
文献
天草版平家物語 ローマ字・漢字仮名翻字対照テキスト データセット/日本語史研究用テキストデータ集
立場
記述(そう書いてあります)
箇所
原本99頁4行
かめいたかし 1967-11-03 伝聞
文献
ハワからハハへ 論文/言語文化
立場
伝聞(他の説として伝えます)
箇所
71–74頁

地域差と語形成

琉球諸語と本土に似た語中弱化があっても、それが分岐後に並行して起きた可能性は残ります。この一致だけで日琉祖語の分岐年代を定めることはできません。

複合語の境界や促音・撥音の後は、単純な母音間とは条件が異なります。高山2026は学会予稿で、/p/を含む語の形成と語頭摩擦音化の前後関係を再検討しています。

トマ・ペラール 2012-02 提唱
文献
日琉祖語の分岐年代 論文/「琉球諸語と古代日本語に関する比較言語学的研究」ワークショップ
立場
提唱(その出典が言い出します)
箇所
2–3頁
高山知明 2026 提唱
文献
ハ行音の摩擦音化とパ行音の分布 論文/日本語学会2026年度春季大会予稿集
立場
提唱(その出典が言い出します)
箇所
19–24頁

分析と検証項目 0件

各分析の提案者は本文と出典に示します。評価はEUJによるもので、検証項目を併記します。

例と出典のネットワーク

例を選ぶと、それを説明する主張と出典がつながります。線は記録上の参照関係を示します。語の派生方向や同系関係を示すものではありません。

例

川

カハ :: カワ

主要例

established

説明する主張
  • 主張

    ペラール2012の表1は上代のカハ・マヘ乙と中世のカワ・マエとを対照する。

    established 表1の文字列を確認した。同資料7頁表15のマヘ甲と食い違うため、母音甲乙の判定は保留する。各写本の初出年は確定できない。
    出典
    • 日琉祖語の分岐年代

      3頁表1

      トマ・ペラール 2012-02 記述
      文献
      日琉祖語の分岐年代 論文/「琉球諸語と古代日本語に関する比較言語学的研究」ワークショップ
      立場
      記述(そう書いてあります)
      箇所
      3頁表1
  • 主張

    木田は語中・語尾のハ行音のワ行化と、そのあとに起こるワ行音の合流とを分けて扱う。

    established 変化の大枠については定説。具体的な年代幅と音価は出典ごとに扱う。
    出典

例の一覧 7件

各行を開くと、語形の位置づけ、主張、評価、出典を確認できます。同じ語について複数の比較を収録する場合があります。

7件を表示しています。

収録例 7件

川 カハ :: カワ 主要例 established

出典の時代別対照による。/a/の前に/w/が残る。

ペラール2012の表1は上代のカハ・マヘ乙と中世のカワ・マエとを対照する。

established 表1の文字列を確認した。同資料7頁表15のマヘ甲と食い違うため、母音甲乙の判定は保留する。各写本の初出年は確定できない。
トマ・ペラール 2012-02 記述
文献
日琉祖語の分岐年代 論文/「琉球諸語と古代日本語に関する比較言語学的研究」ワークショップ
立場
記述(そう書いてあります)
箇所
3頁表1

木田は語中・語尾のハ行音のワ行化と、そのあとに起こるワ行音の合流とを分けて扱う。

established 変化の大枠については定説。具体的な年代幅と音価は出典ごとに扱う。
木田章義 2000-12-30 記述
文献
国語音韻史上の未解決の問題 論文/音声研究
立場
記述(そう書いてあります)
箇所
26頁

この例へのリンク

前 まへ :: まえ 主要例 established

甲乙を省いた編集上の歴史的仮名遣い。出典の表1と表15には甲乙の不一致がある。ワ行音の後続変化を含む。

ペラール2012の表1は上代のカハ・マヘ乙と中世のカワ・マエとを対照する。

established 表1の文字列を確認した。同資料7頁表15のマヘ甲と食い違うため、母音甲乙の判定は保留する。各写本の初出年は確定できない。
トマ・ペラール 2012-02 記述
文献
日琉祖語の分岐年代 論文/「琉球諸語と古代日本語に関する比較言語学的研究」ワークショップ
立場
記述(そう書いてあります)
箇所
3頁表1

この例へのリンク

貝 かひ :: かい 主要例 established

歴史的仮名遣いと現代形の対照であり、写本の逐字引用ではない。

現代仮名遣いの付表は、歴史的仮名遣いのひ・ふ・へ・ほと現代のイ・ウ・エ・オとの対応を示す。

established 公的な表記対照。発音史の中間段階は別の文献で検討する。
内閣 1986-07-01 記述
文献
現代仮名遣い ウェブ資料
立場
記述(そう書いてあります)
箇所
付表、イ・ウ・エ・オの行

この例へのリンク

買う かふ :: かう 主要例 established

歴史的仮名遣いと現代形の対照。

現代仮名遣いの付表は、歴史的仮名遣いのひ・ふ・へ・ほと現代のイ・ウ・エ・オとの対応を示す。

established 公的な表記対照。発音史の中間段階は別の文献で検討する。
内閣 1986-07-01 記述
文献
現代仮名遣い ウェブ資料
立場
記述(そう書いてあります)
箇所
付表、イ・ウ・エ・オの行

この例へのリンク

顔 かほ :: かお 主要例 established

ワ行音の後続変化を含む表記上の対応。

現代仮名遣いの付表は、歴史的仮名遣いのひ・ふ・へ・ほと現代のイ・ウ・エ・オとの対応を示す。

established 公的な表記対照。発音史の中間段階は別の文献で検討する。
内閣 1986-07-01 記述
文献
現代仮名遣い ウェブ資料
立場
記述(そう書いてあります)
箇所
付表、イ・ウ・エ・オの行

この例へのリンク

今日 keΦu > keu > kyoo 主要例 提案

田端の分析による変化式。母音融合を含み、中間段階の語形の文証は未確認である。

田端は「今日」のkeΦuからkeu、kyooへの変化を、転呼に続く母音融合として論じる。

提案 出典の音韻分析による。中間段階の語形の文証は未確認である。
田端敏幸 1989 提唱
文献
日本語の音節構造について―主要部と修飾部― 論文/言語研究
立場
提唱(その出典が言い出します)
箇所
168–169頁

この例へのリンク

母は faua ua 主要例 established

国語研の翻字に見えるハワ形の用例。ハハ形への移行の原因については、ほかの時代の用例も含めた検討が必要である。

国語研の天草版平家物語対照テキストは、原本99頁4行のfaua uaを「母は」に対応させる。

established 対照テキスト上の文字列を確認した。原本画像の独立照合はしていない。
国立国語研究所 2019-03-25 記述
文献
天草版平家物語 ローマ字・漢字仮名翻字対照テキスト データセット/日本語史研究用テキストデータ集
立場
記述(そう書いてあります)
箇所
原本99頁4行

この例へのリンク

既往記述 0件

比較候補 0系列

本文未確認の文献

探索記録

academic・2026-09-05

検索語: ハ行転呼 音韻史 論文/ハ行転呼 再検討/ハ行子音 摩擦音化/ハワからハハへ

学会刊行物、大学・国語研の機関リポジトリ、出版社の試読版、国語研の翻字資料を参照した。本文の参照範囲は文献レジストリに記す。

x・2026-09-05

検索語:

Xの検索・投稿本文の参照は行っていない。収録文献はXの関連投稿を網羅しない。